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2018年12月◯◯日 すし処めくみ

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金沢の市街地から30分ほど、車は静かな住宅街に入っていく。
こんな場所にほんとうにお店があるのかと思っていると、こじんまりとした入り口に小さな明りが灯り「すし処めくみ」の看板が目に入る。

「道が込んでいて思ったより時間がかかってしまい、申し訳ありません」という丁寧なタクシーの運転手に帰りの迎えを予約して店の扉を開ける。
入り口を入り細い通路を右手に折れると、また長い土間が続き、その手前に引き戸がありその奥が食事の部屋になっている。
カウンター8席のみ、6時からと8時半からの二交代制いっせいスタートのシステム。

ノミ跡の美しい太い柱、珪藻土に能登の土を練りこんだ塗り壁、細かな指物の引き戸、どれひとつとっても隙は見つけられない。


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お手洗いの扉の引き手

カウンター席へ続く引き戸、クロークの引き戸も全て異なる金具が使用されている。

「これは絶対期待できますね」と木嶋さんは小さな声で仰った。
6時を少し遅れて、奥さまがお客を来た順番に席に案内してくださる。
長いカウンターは樹齢300年という檜の柾目の一枚板。
その向こうに最後の仕上げをする真っ白な材の分厚いまな板が数枚並び、その後ろの飾り壁の奥が仕込みの厨房のようだ。
その室礼に全く華美さはなく、研ぎ澄まされた佇まいの中に静かな優しささえも感じさせられる。

「喉が渇いているので、最初一杯だけビールをいただきましょうか」と木嶋さんが仰るので、私もビールの小をもらい、その後は奥様にお任せしてお酒を選んでいただく。

・まず最初はもくず蟹の甲羅盛り。
驚いたのは、身のふわふわの食感。
どちらかというとしっかり目のもくず蟹の身をここまでふわふわにするには、どれだけの時間がかけられているのだろうと思う。
極細の箸で気の遠くなるような丁寧な手間で解してあるに違いない。

・お造り
見たこともないような大きさのぼたん海老
ご主人は「これでもまだ小さいほうですよ」と仰る。
アオリ烏賊はミリ単位の隠し包丁が入れられねっとりとした甘味。
その横の紙のように薄く削いであるものは、何と皮を剥いた水タコの頭の薄造り。

水蛸の柔らか煮
いつも食べているような柔らか煮とは食感も味も全く別物、蛸なのだけれど蛸ではないというようなふわふわの仕上がり。
煮ているわけではなく、ほんの少しの塩を入れた水でゆっくりと時間をかけて茹でてあるらしい。

鱈の白子ポン酢
こんな火の通し方で大丈夫なのだろうかと思うほどの生っぽさ。
口に入れただけでとろけてしまう。

のどぐろの塩焼き
私は、のどぐろは脂がくどすぎて値段に見合わない魚だと思っていたけれど、その概念が180度変わったかもしれない。
その焼き上がりは皮までしっとりで、箸で切った時に脂が外に逃げないように焼き上がりに金箸でちょんちょんと切れ目が入れられている。

香箱蟹
もくず蟹に続き二杯目の蟹の甲羅盛り。

ぼたん海老の頭の塩焼き

以下握り鮨

・赤烏賊
・雲丹
・白子
・鰤
・コハダ
・ぼたん海老
・のどぐろ炙り
・穴子ツメ
・太巻き(出汁巻き卵、かんぴょう)

毛蟹の散らし寿司
散らし寿司といいながらご飯は探さないと分からない程度しか入っておらず、殆どが毛蟹。
こんな僅かな酢飯が何のために入っているのかと思っていると「炭水化物が少し入るだけで、毛蟹の旨味がぎゅっと引き出されるんです」とご主人が仰る。


往復3時間以上かけて漁港に通い厳選された魚を仕入れ、血抜き、神経締め、仕込みと休む間もなく働き、特に蟹の解禁の時期は一日2時間ほどの睡眠しか取られないと聞いた。
人間そんなことで生きていけるのかと思うほどなのだけれど「まだまだ極めたい」と仰る。

最上級のネタを最も美味しいと思われる状態で供するための情熱と技術と手間には感動を通り越して衝撃しかない。
赤酢と米酢が合わせられたシャリは殆ど握られておらず、空気がふんわりと入っているのに崩れることがない。
お客が食べる時間に最も旨味が引き出されるように逆算しているという話を伺えば、いっせいスタートというシステムにも頷ける。

伺う前はちょっと偏屈な職人気質の人かと思っていたけれど、休むことなく手を動かしながら、お客さんの質問にはちらっと目をやって言葉少なだけれど丁寧に答えてくださる。
そして、そんな修行僧のようなご主人を引き立て、にこやかに微笑みながら店を切り盛りされている奥さまがまた素晴らしい。

「目から鱗という言葉がありますが、僕は目が落ちました」と木嶋さんは言われたけれど、私もお腹だけでなく脳の襞の隅々までぱんぱんの状態だった。

「食事のあと『一葉』というお座敷バーにご案内しようと思っていたのですが、今日はこの余韻を抱いたまま眠りにつきましょう」
「ええ、この味以外のものを口に入れたくありませんよね」

私達は迎えのタクシーに乗り夜の住宅街を抜けてホテルに辿り着き、それぞれの部屋に帰って眠った。



☆「すし処めくみ」
石川県野々市市下林4丁目48
℡ 076-246-7781

料理写真の撮影は不可です。



Commented at 2018-12-11 23:48
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by ワイン好きの料理おたく at 2018-12-11 23:56 x
ただ、ただ、ため息。
いいな~
Commented by syun368 at 2018-12-12 00:32
23:48の鍵コメさん
お鮨の括りを超越した衝撃のお料理でした。
是非 いらしてみてください。
ただ量がかなりたっぷりなので、しっかりお腹を空かせて行かれてくださいね(^^)
Commented by syun368 at 2018-12-12 00:38
ワイン好きの料理おたくさん
こちらの料理を言葉で表現するのが とても難しいのですが、お鮨という範疇を越えたお鮨でした。
極める…というのはこういうことなのだなぁと思いました。
同行の人は、余りの真剣勝負に ちょっと疲れたと言っておりましたが(^^)
Commented by Mchappykun2 at 2018-12-12 01:49
文章だけでも、「めくみ」の素晴らしさが伝わってきます。いえ、却って写真がないことで想像力が掻き立てられるのかもしれません。
全て、書き留められたのでしょうか? 素晴らしい記憶力です!
以前、金沢を訪れるに際して、こちらのお店のことも検索で出てきたのですが、市内から遠かったので、やめました。いつか冬に訪れたいところですが、冬といっていたら、一生縁がないでしょうから、季節はいつでも良いのでいつかいってみたいです。
Commented by fusk-en25 at 2018-12-12 09:36
極上の食べ物を前にして。。
他に言うことなしですね。

「心の臓より胃の腑を掴め」みたいな展開。。
ロマンスはちょっとお腹が空いたぐらいの方がいいかも。。

でも正直いうと、
極みよりちょっと物足らないぐらいが好きです。
Commented by africaj at 2018-12-12 14:29
「めくみ」、インスタから始まり序章が長く、凄そうだけれど全容わからずでしたが、ようやく!
うーん、今度行く時誘ってくださいとしか言えません。
あ、木嶋さんと2人で行くのにお邪魔ですねw
Commented by syun368 at 2018-12-12 16:13
Mchappykunさん
こちらは 本当に衝撃のお料理でした。
美味しいというような一言では表現できないのです。
ここまで自分の仕事にのめり込める人を見たことがないかもしれません。
きっと四季折々に美味しいお料理に出会えると思います。
是非ぜひ ご帰国の折りには いらしてみてください。
2ヶ月前からの予約ですが、直ぐに満席になってしまうようです。
Commented by syun368 at 2018-12-12 16:17
fusk-enさん
あはっ 美味しいものを食べ過ぎるとロマンスの方は ちょっと脇にいってしまいました(^^)

仰っている意味よく分かります。
確かに美味しすぎるのです。
夫は真剣勝負過ぎて ちょっと疲れたかも…と言ってました。
ただ、プロ中のプロの仕事というものを間近に見せていただきました。
頭の中ひっくり返りました。
Commented by syun368 at 2018-12-12 16:21
afrikaさん
あはっ 大丈夫です。木嶋さんは心が広いので(^^)
こちらのご主人の仕事ぶり、是非afrikaさんに見てもらいたいなぁ。
絶対 衝撃を受けるから。

Sさんは興奮して眠れなかったそうです(笑)
Commented by syun368 at 2018-12-12 16:23
Mchappykunさん
追記
同行の人がメニューをメモしてくれていたのです。
私はそれを見せていただいて記憶を辿りました。
Commented by fran9923 at 2018-12-13 17:49
死ぬまでに一度行ってみたいです。
Commented by syun368 at 2018-12-13 18:06
franさん
死ぬまでなんて〜(^^)
東京からは新幹線がありますよ〜
瀬戸内からは遠いですけど…
by syun368 | 2018-12-11 17:35 | お出かけ | Comments(13)