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2018年12月◯◯日 旅

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金沢市主計町茶屋街

観光客の多い東茶屋街とは違い昼間はほとんど人通りがない。
夜になり料理屋の店先に明りが灯ると、しっとりと街は呼吸を始める。


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私が雨の金沢に着くと、もう辺りは薄暗くなり始めていた。


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街は師走のイルミネーションに彩られ、私は木嶋さんに指定されたホテルにチェックインをする。

「お連れさまはチェックインを済まされていますが、今お出かけのようです」
フロントの人に鍵を貰う。
部屋は別だった。
私はやはりほっとして、嵌めてきたひろの時計をそっと撫でる。
自分でも信じられないような決断をしてやってきたけれど、戸惑いや気恥ずかしさや多少の不安がなかったと言えば嘘になる。
木嶋さんの大人の対応に救われていた。

「5時半にタクシーを呼んでいますからロビーで待ち合わせましょう」という木嶋さんからのメールをもらって、私は少し早くロビーに降りて行った。
エレベーターを降りると入り口近くに木嶋さんが立っているのが目に入り、声をかけようと思ってふと気付くと隣に女性の姿があった。
私は近づくことも隠れることもしないで二人を見つめていた。
暫くして木嶋さんは私に気付き「あっ」というような顔をされて、その視線の先を追うようにその女性が私の方を見た。
泣いているようにも見えた。
約束をしていたのは、この女性に違いないと思った。
こんな時、女はとても意地悪で嫌な一面が顔を覗かせる。
きちんとした厚手のツイードのスーツに大判のショール、お洒落な人のようだけれどきっと私の方が若い。
私は目を逸らせることはしないで軽く会釈をした。
女性はそれには応えず、小走りにホテルを出て行った。

私は何を張り合っているのだろう。
何だか自分がとても嫌な人間に思えて、じゃりじゃりとした後味の悪さが私を襲い、木嶋さんに近寄り「ごめんなさい」と言った。
よく考えれば私が謝るようなことでもないのだけれど…
「いや」と木嶋さんはひとこと答えて「さぁ行きましょう」と言って私に傘をさしかけてタクシーに乗せてくれた。

二人とも暫く無言のままだったけれど「これから美味しいものをいただくのに、わだかまりを抱えたままというのは嫌なのできちんとお話しましょう」と木嶋さんは言って「彼女とは2ヶ月ほど前まで付き合っていました。ちょうど『めくみ』に予約を入れた頃です。でもその前から何となくお互いに何かが違うと思っていました。言葉では上手く説明できないんだけど見つめている方向が違うというのかなぁ。なのでちゃんと話をして彼女も納得してくれたと思っていたんですが、あんなところを見せてしまって申し訳ない」と話された。
じゃぁ私はその人の代わりということですか…という言葉が頭をよぎったけれど黙っていた。
木嶋さんは私の心を見透かしたかのように「僕は同時に複数の女性と付き合えるような器用な人間ではありませんよ」と言われた。
「はい」と私は答えた。

3ヶ月ほど前までのひろとの時間を思うと、今私がここにこうして木嶋さんといることだって信じられないことなのだ。
私は木嶋さんの過去を詮索するのはやめようと思っていた。

夕方のラッシュにかかり道は込んでいて思ったよりも時間がかかったけれど、お互いに冷静さを取り戻すにはちょうどいい時間だった。






Commented at 2018-12-09 15:47
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by fusk-en25 at 2018-12-09 19:23
ふーん。こういう趣向もあるのですね。
困っただろうな木嶋さん。
みっともないとこ見せてしまって。
ま。トントントンじゃ普通のラブロマンスになってしまいますものね。
これからも。。どんなひねりがあるのだろう。
Commented by syun368 at 2018-12-10 00:04
15:47の鍵コメさん
とても充実した濃い旅でした。
瀬戸内とはまた違った凛とした空気感、冬の美味しい味覚、ますます北陸のファンになりました。

はい 次回「めくみ」登場します。
でも料理写真NGなんですよ。
Commented by syun368 at 2018-12-10 00:10
ふふっ 若い頃と違って歳を重ねると それぞれ色んなものを背負っていますもんね。
なおも木嶋さんも自分の過去を見つめながら相手のことを理解し、それでも同じ道を歩んでいく決心ができるのかどうか…私自身もまだ着地点を迷っているのです(^^)
Commented by Mchappykun2 at 2018-12-10 01:35
なるほど。こういう展開ですか。
syunさんは写真もとてもお上手ですね。きちんと学ばれたからですね。
Commented by fran9923 at 2018-12-10 08:56
なおさんは勇気があります。
Commented by syun368 at 2018-12-10 10:28
4番目のコメントはfusk-enさんへです。
fusk-enさん ごめんなさい。
Commented by 登志子 at 2018-12-10 10:31 x
ひゃぁ~~~
意外な展開です。
さすがストーリーテラーでございますね。
Commented by tomo-so_ko at 2018-12-10 12:50
こんにちは。
昨日コメントしようとしたら乙の邪魔が入って
しまって。。。

私の好きな歌にboomの月さえも眠る夜という
曲があります。その2番の歌詞の一節で誰かと
愛し合った季節までも好きになってあげたいと
言うフレーズがあります。一番好きな詩です。

歌詞だけでなく曲も良いのでご存知なかったら
是非聞いてみて下さい~^^
Commented by kei-kana38 at 2018-12-10 20:25
次が早く読みたい・・・です。
Commented by syun368 at 2018-12-10 22:18
Mchappykunさん
今回のなおは今までよりも 少しだけ積極的かもしれません。

写真は好きなのですが、なかなか上達しないのです(涙)
Commented by syun368 at 2018-12-10 22:20
franさん
なおは一見大人しそうな女性なのですが、意外と大胆な一面もあるのです(^^)
Commented by syun368 at 2018-12-10 22:22
登志子さん
うふっ 大人になりきれないなおと 大人の木嶋さんの行く末、見守ってくださいね。
Commented by syun368 at 2018-12-10 22:25
tomo-so_koさん
教えてくださった曲 検索して聴きました。
胸がつんとしますね。
今のその人の存在は過去も全部ひっくるめて…ですものね。
なおと木嶋さんも そうであってくれると良いのですが…
Commented by syun368 at 2018-12-10 22:28
kei-kanaさん
ありがとうございます。
ちょっとイレギュラーな恋の行く末、見守ってくださいね。
Commented by jyon-non at 2018-12-11 17:44
う~む、やはり女性がいましたか。なかなかドラマチックですねぇ。・・
Commented by syun368 at 2018-12-12 00:44
jyon-nonさん
うふっ なかなかすんなりといかないのが、男女の仲ですよね(^^)
by syun368 | 2018-12-09 15:03 | お出かけ | Comments(17)