2018年 06月 23日
2018年6月◯◯日 トマト
この一画での時間が私の生活のほとんどを占めるようになって4年が経とうとしている。
若い頃には夜の仕事をするなんて思いもしなかった。
それなりに歩いてきた人生なのでリセットしたいと思ったことはないけれど、無かったことにしたいことの一つや二つはある。
あの頃に還ることはできないし還りたいとも思わないけれど、ふとこれからの道のりを不安に思うこともある。
体力がなくなったりお客さんが少なくなったりしたら、お弁当屋をしようかと考えたりする。
一日20個くらいの限定で、季節の魚やお野菜を丁寧に仕込んで、漬物や佃煮を詰めていくお弁当もいいものだなぁと思う。
単身赴任のお父さんや一人暮らしのお爺ちゃんやお婆ちゃんが、楽しみに待ってくれるようなお弁当が作りたいなぁ。
10時過ぎの遅い時間に原田くんが珍しく一人でやってきた。
何だかいつもと少し様子が違う。
何か話したそうであるが、まだお客さんも何人かいらしたのでカウンターの隅に座って黙ってビールを飲んでいた。
「俺もその可愛いトマト貰おうかなぁ」
隣の席の若い女性が、冷酒のアテに召し上がっているトマトのマリネを指差して原田君が言った。
「女性限定だけど、仕方ないから原田君にもあげようかな」という私の冗談にも、にやっと笑ったきりだった。
10時半頃になって他のお客さんが帰り原田くん一人になって、やっと重い口を開いた。
「俺、なっちゃんが男とバーで飲んどるとこ見たんだよなぁ。それも二回も」
私はどきっとして頭の中でくるくると言葉を捜していた。
「いかにもなっちゃんが好きになりそうな男じゃったけど、あいつ独りもんやないじゃろ」
私は黙っていた。
原田くんに変に言い繕ったり嘘をつくのはいやだったけど、何と答えていいのか分からなかった。
「やっぱりそうか…」と言うので、私は小さく「うん」と答えた。
「世良(結子のこと)は知っとんか?」
「うん」
「そっか…。俺がどうこういうことやないんじゃけどな、一緒になる気がないんやったら別れたほうがええで。男はなぁ勝手なもんで、よっぽどのことがない限り自分の巣を壊す気はないんじゃ。それでも外の世界にも手を出しとうなる。諦めが悪い生きもんじゃ。こんなことなら俺が貰っといてやればよかったなぁ」
「そんな気もないくせに」と笑うと、原田くんは「なっちゃんはそういうの鈍いけんのう、まぁそれがお前のええとこなんじゃけどな」と冗談か本気か分からないような言い方をした。
「もっとお前のことを大切に考えてくれる男はおると思うで」
「そうかな、私一度結婚には失敗してるし自分に自信ないわ」
「あのなぁ、今どき離婚なんて何も失敗じゃないで。いい経験やと思うたらええねん」
「うん、ありがとう。心配させちゃったね」
「まぁ余計なお世話やけどな」
原田くんはそれから残りのお酒を飲み干して、帰り際に「なっちゃん、便利な女にはなるなよ」と言って出て行った。
便利な女かぁ…。私はひろにとって便利な女なんだろうか。
今日のひと品
トマトの煎り酒浸し
・トマトの皮を湯剥きし、半日~一晩煎り酒に漬け込む。
・冷たく冷やして供する。
以前の煎り酒のレシピ
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hibinosara at 2018-06-23 19:13
トマトの煎り酒浸し!
に大きく反応してしまいました。
おいしそう・・・。
お弁当、きれいですね。ごはんに巻いてあるのは大葉、ですか?
このごろどうしてかお弁当を作りたくて仕方がありません。
あのう、この折の深さは何センチくらいあるのでしょう。ふつうのよりも深いように見えて。
に大きく反応してしまいました。
おいしそう・・・。
お弁当、きれいですね。ごはんに巻いてあるのは大葉、ですか?
このごろどうしてかお弁当を作りたくて仕方がありません。
あのう、この折の深さは何センチくらいあるのでしょう。ふつうのよりも深いように見えて。
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fusk-en25 at 2018-06-23 22:29
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syun368 at 2018-06-23 22:43
ricaさん
日本酒に合うようなトマトのマリネが作りたいと思って煎り酒に漬けてみました。
酸味が加わってこれはこれでありかな…
これお弁当箱じゃなくてお弁当の空き箱なんです。
手前のちょっと深い(普通のお弁当箱より2cmくらい深いかな)のはどこのものか忘れてしまったのですが、後ろのは京都の辻留のものです。
隅切りの形も好きです。
京都に行く度に予約しておいて買って帰るのでたまってしまいました。
大葉は干して醤油漬けにしたものです。
お結びに巻くと美味しいです。
お向かいのおばあちゃまに教わりました。
日本酒に合うようなトマトのマリネが作りたいと思って煎り酒に漬けてみました。
酸味が加わってこれはこれでありかな…
これお弁当箱じゃなくてお弁当の空き箱なんです。
手前のちょっと深い(普通のお弁当箱より2cmくらい深いかな)のはどこのものか忘れてしまったのですが、後ろのは京都の辻留のものです。
隅切りの形も好きです。
京都に行く度に予約しておいて買って帰るのでたまってしまいました。
大葉は干して醤油漬けにしたものです。
お結びに巻くと美味しいです。
お向かいのおばあちゃまに教わりました。
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syun368 at 2018-06-23 22:46
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Mchappykun2 at 2018-06-24 00:40
トマトの煎り酒浸し、ですか。なるほどね。マリネ、といったら洋風のものしか頭に浮かびませんでした。
暑い日に冷たいトマトのマリネ、考えただけでも爽やかで美味しそうです! そちらはまだ梅雨で、蒸し暑いのでしょうか?
こちらは夏至も過ぎたのに、例年より涼しく、寒がりの私は半袖を着る気になりません。
暑い日に冷たいトマトのマリネ、考えただけでも爽やかで美味しそうです! そちらはまだ梅雨で、蒸し暑いのでしょうか?
こちらは夏至も過ぎたのに、例年より涼しく、寒がりの私は半袖を着る気になりません。
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hibinosara at 2018-06-24 09:14
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fran9923 at 2018-06-24 12:53
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thesakana at 2018-06-24 14:49
無かったことにしたいことが一つや二つですか? 羨ましい!!
思い起こすたびに死にたくなったり、泣きたくなったり、気絶しそうになったり・・・
わたくしめの半生(はんせい)は黒歴史のかたまりなんです(涙)
思い起こすたびに死にたくなったり、泣きたくなったり、気絶しそうになったり・・・
わたくしめの半生(はんせい)は黒歴史のかたまりなんです(涙)
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syun368 at 2018-06-24 15:25
Mchappykunさん
日本酒に合うマリネをと思って色々漬けてみたのですが、私はこの煎り酒がさっぱりして好きでした。
こちらはまだ降ったりやんだりの日々が続いています。
梅雨は明けそうであけません。
でも明けると猛暑らしいので それはそれで困るのですが…
日本酒に合うマリネをと思って色々漬けてみたのですが、私はこの煎り酒がさっぱりして好きでした。
こちらはまだ降ったりやんだりの日々が続いています。
梅雨は明けそうであけません。
でも明けると猛暑らしいので それはそれで困るのですが…
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syun368 at 2018-06-24 15:27
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syun368 at 2018-06-24 15:30
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syun368 at 2018-06-24 15:32
duoさん
あらまぁ duoさんはそんなにヤンチャな人生を送ってこられたんですね(笑)
あらまぁ duoさんはそんなにヤンチャな人生を送ってこられたんですね(笑)
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jyon-non at 2018-06-25 13:00
素敵なお弁当です。頂きたくて画面をじっと見ます。おばあちゃまの確かな知恵。しみじみとしてこうして、紹介していただいて感謝します。
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syun368 at 2018-06-26 09:41
by syun368
| 2018-06-23 13:30
| 今日のひと品
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Comments(14)