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2018年4月◯◯日 宮島

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空も海も風さえも蒼く、全てのものが硝子細工のようにきらきらと輝いていた。
明日も明後日もいらない、今この時が止まって欲しい。

ひろが土日にかけて広島に来ることは今まで一度もなかった。
昨夜「明日の夜までに帰ればいいから、どこかに出掛けよう」とひろは言った。
この5年間ひろと光の中を一緒に歩くことはなく、いつも闇の中で会い夜が明ける前に別れた。

ひろが肩に手をまわすと、小柄な私はひろの脇の下にすっぽりと入り込んでしまう。
ひろが話す声が少し上方から私を包みこむ。
たった一度でも、こうして眩い光を浴びて並んで歩くことがあるとは思いもしなかった。
何年経ってもきっと私は、この日の空や海の色を忘れることはないと思う。

商店街を抜け坂道を少し上がり短い階段を数段登ると「SIGNAL」という工芸の小さなセレクトショップがある。
そこに置いてある段通の椅子の敷き物が好きで、いつか買いたいと思いながら訪れる度に見ていた。
段通の柔かく、しかししっかりとした糸の立ち上がりをそっと撫でていると
「買ってあげようか?」とひろが言ったけれど「ううん、いいの」と答えてお店を出た。

左手にまた坂道を登りながら
「私ね、お金が貯まったらお店のカウンターを一枚板に変えて椅子も新しくするの。それでね、今の段通を揃えるのよ」と言うと
「そうか、じゃあその時はお祝いにプレゼントするよ」とひろは言った。
本気じゃないでしょう…と言いかけたけど「あてにしてるわ」と答えて笑った。


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坂道を登りきると「KAKIWAI」の古い門構えが現れる。
古民家をリノベーションした店内は海に向かって全面に開け放たれ、初夏を思わせるような陽射しが眩ゆかった。
左手に五重の塔、正面には瀬戸の海と対岸の街並みが広がる。
甍の向こうを船がゆっくりと渡っていき、五重の塔を囲む新緑が幾重にも緑の層を重ねて光っていた。

「宮島はね、神の島だからお墓はないの。島の人は亡くなると対岸に運ばれて眠りにつくんですって」と言うと
「舟で運ばれて旅立つんだね」とひろは答えた。

フレッシュレモンのモヒートが甘酸っぱく、グラスには白い光が砕け、鳩尾のあたりからつんと哀しさが込み上げてきた。


☆今回の宮島の「SIGNAL」と「KAKIWAI」は実在します。




Commented at 2018-04-28 22:28
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by nayacafe-2950 at 2018-04-28 22:55
連載って待ちどうしくって・・・(笑)
お料理もいつも美味しそうで!

大きな選択をした奈緒さんの生き方。自分にはできそうにないのでだからこそ魅力的!ひとりで生きるってきっと大変な人生なのだろうなぁ~なんて人ごとのようだけど
実はそう出来ない自分がいてどこかで憧れてる。
このまま、このまま終わるのかな人生。
やっぱり、残りの人生たっぷり楽しまねば・・・失敗を恐れずに!フフフ。
Commented by kei-kana38 at 2018-04-28 22:58
次が読みたい〜。
写真もいつも美しく。
楽しみにしています。
Commented at 2018-04-28 23:56
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by fusk-en25 at 2018-04-29 04:05
闇に生きるから。。こそ。
より光の明るさが身にしみる。。

段通が並ぶようになるといいですねえ。
Commented by syun368 at 2018-04-29 08:04
22:28の鍵コメさん
ほんと せつないですよね。
私も書きながら哀しくなってしまいました(笑)
Commented by syun368 at 2018-04-29 08:09
nayacafeさん
ありがとうございます。
実際の私はなおのように強くはなく、家族に守られて暮らしています。
でも時々あの時 今とは違う道を選択していたら 人生は変わっていたのかな…と思ってみることも(笑)
なおとは形は違っても何かを思い切って選択してみるのもいいかも知れませんね。
もう失敗は恐くない歳になってしまいましたので。
Commented by syun368 at 2018-04-29 08:11
kei-kanaさん
ありがとうございます。
なおとひろは なかなか先が見えなくて、どうしましょうね。
Commented by syun368 at 2018-04-29 08:14
23:56の鍵コメさん
きやっ 鍵コメさんのシークレット、ドキドキ!
スイートメモリー 再訪の時は是非なおにツアコンお申し付けくださいませ(笑)
Commented by syun368 at 2018-04-29 08:16
fusk-enさん
光があるから影が生まれるのですものね。
闇の向こうに一筋の光が現れるとよいのですけれど…
by syun368 | 2018-04-28 22:24 | お出かけ | Comments(10)